流刑地

作品の感想とか諸々、ネタバレありです。

終わる世界とバースデイ

歳を重ねる毎に、いつしか自分の誕生日が特別な日であるという気持ちが薄くなっていく。
子供の頃はあんなに楽しみだったのに。

誕生日というものを自分の中で時々どう処理すれば良いのか思考を巡らせていた。
例えば誕生日をテーマに物語を考えたり、或いはキャラクターの誕生日を祝うイラストを描いてみたりした。
いずれにしても他人のそれを祝うことが無条件にできても、自分のそれについてはブランクなままだった。
そんな最中、目に止まったのが「終わる世界とバースデイ」である。

(以下ネタバレ有り)

個別ルート(入莉、夏越、藤白、成子)については平凡というか各ヒロインと終末を迎えるもので、カサンドラシンドロームはちょっと違うけれど、特筆するような内容には感じなかった。
共通ルートと個別ルートを終えて、リバースエンドが開放されて、今の世界は死んだ入莉を人工知能で完全再現させて蘇らせるための疑似世界だったとわかるわけで、まぁそのへんのくだりも諸々物語に触れてるとなんだか察してたので、別段驚かなかった。

ここまで書いてなぜ感想をわざわざ書いてるのかっていうくらい冷めてた物言いだが、この作品は終盤(疑似世界の凍結あたり)〜エピローグが全てである。
本来の入莉より精神的に成長した人工知能のイリは自ら疑似世界の凍結を選択するのだが、最後に主人公から冬谷イリという本来の千ケ崎入莉とは別の名前と疑似世界が凍結される9/29を誕生日とされ、毎年祝うことを約束される。
凍結から数年後、主人公の誕生日にスマホに着信が入り、ボイスデータでイリが誕生日を祝ってくれるのだが、ここのテキストで自分自身の誕生日に対する空白が埋まったように思う。

「今日からまた、新しいあなたの始まりですね」

毎年この日に、胸を張って君に誕生日を祝ってもらえるよう...
次の誕生日も、その次の誕生日も、幸せな日でありますように。

私は今年の誕生日ということしか頭になかった。来年も誕生日がくるという連続性を考えていなかった。
でも多分そうだったから答えがでなかったのだろう。次の誕生日、その次の誕生日も幸せであるように、新しくまた頑張り始める。それが自分にとっての誕生日という区切りなのだろう。

自分の心を揺さぶられるようなものって良い物で、そういったものって決して自分の中から無くならない。
そういう作品に出会えるから、私は物語から離れられないんだろうなぁって思う。