流刑地

作品の感想とか諸々、ネタバレありです。

夏の香りの雑木林を抜けて

仕事帰りに煙草を吸って、夜中の静寂に涼しげな風だけが優しく私を通り抜けていく。
まだまだ厳しい残暑ではあるが、夏が終わったんだと感じとる9月1日。

色々な事が出来なかった夏だった。
年々私が掴みたかったと焦がれる夏から遠ざかっているという感覚だけ残して、また夏が去っていく。

とはいえ『イリヤの空、UFOの夏』は夏休み最終日から始まるストーリーである。
あんなに夏を感じるのに。
毎年読み返すので、もはや感想もなにもないが、どれくらい好きなのかといえば、小説ラストページをいい感じに写真にとって、スマホの壁紙にしてあるくらいには好きだ。
イリヤの空の話の肝は、あくまで浅羽くんの世界の話であって、世界は実はやべえことになってるなんて一介の少年が知り得ることでないし、どうもできるわけないということ。
ただイリヤは渦中にいる人間である。
浅羽くんという現実とイリヤという非現実。いわば一昔に流行ったセカイ系或いはボーイミーツガールである。
なぜ毎年読み返しているのかといえば、私の焦がれる夏の香りがするからである。

なぜここまで私は夏に拘っているのか、正直言語化出来ない。ただATRIのプレイ日記でも触れたが
全ての創作物は、永遠の『子供の頃の夏休み』を目指している。
という文を見た時、なるほどと思ってしまったのだ。
色々なアニメ、漫画を飲み干してきたつもりだが、ある種の解答であり、様々な創作物に出会うごとにその意味が自分の中で大きくなってるのかも知れない。
だから私の夏はいつだって消化不良で、夏への扉を探し当てられないのだろうか。


夏の低く感じる空が、秋になって遠ざかっていく。
立体的な入道雲も散って、書割みたいな空がやってくる。
その空の裏側に面倒ごと全てを投げ込んでたぬき寝入りを決め込みたいものだ。
夏への扉を見つけられるまで。